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湿板写真とは

生のガラスに張り付く像は信じられないような質感と解像度を持っています。

170年前に発明された技術とは到底思えません。

実際に撮影を体験してみると優雅で美しいプロセスに

現代には無い時間を感じとることができます。

その一  卓越した解像感

市販のモノクロフィルムの粒子が銀の結晶で構成されているのに対して、湿板写真の粒子は銀の粒子単体で構成されています。つまり、市販のどんなフィルムよりも粒子が細かいのです。それがどのくらいのものなのか、5000万画素クラスのデジタルカメラで撮影したデータと、世界最高峰のスキャナを使って湿板写真を5000dpiでスキャンしたデータを比較しました。結果は同等もしくはそれ以上。つまり解像感においては、170年前に写真は完成されていたのです。

その二  保存性

湿板写真は銀の粒子でできています。銀は酸化してしまいます。酸化すると、黒くなり、膜ごと剥がれてしまいます。それを防ぐために表面をニスでコーティングします。コーティングされた銀は変質しにくくなり、長期間の保存に耐えます。百数十年以上前に撮影された湿板写真は世界中に現存します。保存状態によって百年以上の保存が証明されているのです。

また、割れやすいガラスを支持体に使うことで、より丁寧に扱おうという人の心理が湿板写真の寿命を永くしています。

湿板写真 保存

その三  唯一無二の光の記録

写真は被写体に当たった光を記録する作業です。湿板写真は被写体が発する光(ある光源の光を被写体が反射した光)が、レンズを通って、ガラス上の膜に当たった時の濃淡が、そのまま写真になっています。仕上がった写真は、銀の粒子を通じて、撮影時の光そのものを鑑賞していることになります。また、湿板写真は物理的なコピーができないので、撮影された写真は世界に一枚のものとなります。

湿板写真 光 記録

物質としての湿板写真

体験としての湿板写真

その一  写真のための時間体験

湿板写真は撮影から仕上がりまで約2〜3時間かかります。2〜3時間という時間は、デジタルカメラで撮影した写真を選んで現像してプリントするよりも、もしかしたら早いかもしれませんし、遅いかもしれません。ただ、その2〜3時間後には必ず完成しており、その後、手を加えることも複製することもできません。程よい疲れと満足感を得る事ができる、不思議な時間です。

湿板写真 体験性

その二  撮影体験

湿板写真のISO感度はだいたい1くらいです。露光時間にすると、数秒から数分。被写体になってみると、撮影時の緊張と緩和のコントラストから、当時の人が「魂を抜かれた」なんて言ったのがわかる気がします。また、撮影者も被写体との向き合い方が少し変わります。デジタル撮影だと被写体を見ることに集中しますが、見ることよりも、数秒間の間を感じる時間になります。被写体にとっても、撮影者にとっても、ただ一瞬の「撮影」と言うよりも、むしろ記憶に残る「撮影体験」と感じることでしょう。

湿板写真 撮影体験

湿板写真の起源

1851年、イギリスのフレデリックスコットアーチャー氏が発明した写真技法です。当時主流だったダゲレオタイプと比較すると、手間が少なくてすむ、実効感度が高い、劇的に安価、にも関わら高い画質を持っていました。アーチャーが特許を取得しなかったこともあって、短期間のうちにダゲレオタイプに取って代わります。

その後、湿板写真よりも携行性に優れた乾板写真が登場するまでの約半世紀の間、湿板写真は世界中で撮り続けられました。その時撮影された原板は、現代にも数多く残っています。

湿板写真の種類

湿板写真はコロジオンプロセスと呼ばれています。ガラスなど平面性の高い支持体にコロジオン溶液を垂らして膜を作り、その膜の濃淡で写真として見ることができます。この時、得られる像はネガ像で、定着した像の背景を黒くする事でポジ像として認識できます。ガラスを支持体に像を定着させ、黒い背景を重ねて見る方法を「アンブロタイプ」、黒い金属板を支持体にして、それ単体で鑑賞できるようにする方法を「ティンタイプ」と呼びます。ティンタイプは持ち運びなどに優れておりますが、像が反転しています。アンブロタイプはガラスをひっくり返すことによって、正像で見ることができます。

このプロジェクトでは主にアンブロタイプを扱います。

コロジオンプロセス 写真

撮影プロセス

0.(撮影場所にて)カメラを構え、構図、ポーズ、ピントを決定します
1.(暗室にて)ガラスにコロジオン溶液を塗布し薄い膜を作ります
2.(暗室にて)硝酸銀溶液に浸けて、ガラス上の膜に感光性をもたせます
3.(暗室にて)遮光できるガラスホルダーに内蔵します
4.(撮影場所にて)ガラスホルダーをカメラに取り付けます
5.(撮影場所にて)撮影-ガラスに長時間の露光を施すこと-を行います
6.(暗室にて)撮影済みのガラスに現像液をかけて、ネガ画像を表出させます
7.(明室にて)ガラスを定着液に浸し、ポジ画像に変化させます
8.(明室にて)保存性を高めるためにニスをかけて仕上げます

 

6.を終えると写真として見ることができます。1.から6.の工程で約15分~20分程。この工程をガラス上の膜が湿っている間にやらなければならないことから、「湿板写真」と呼ばれています。その後7.8.の作業に約2時間かかります。

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